世にも不思議な損保の世界

現役損保社員として20数年、業界に対して思うこと、保険やお金に関する話を面白おかしくつづります。

掛け金は一体どこへ

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生徒総合保障制度や学生総合保障制度と呼ばれる保険。

保護者は自分の子どもの安全を祈ってこの保険に入ります。

ケガをしたら大変、自らに万が一のことがあったら大変、

そんな思いで大切なお金を支払います。

 

平均すると年間掛け金1万円くらいです。

大学4年間だと4万円、中学や高校3年間だと3万円。

結構な掛け金ですよね。

 

保護者は入学案内に同封されている加入パンフレットを読みます。

そこには加入が強制であるかのように学長や校長の推薦文が付いています。

そして保護者は同封されている郵便振替依頼書を握りしめて郵便局へ。

 

3万円から4万円、ものによってはもっと高額の掛け金です。

振込先は「〇〇大学総合保障制度係」などと書かれています。

もちろん大学に直接振り込まれていると思いますよね。

 

ところがこれ、その多くが担当代理店の管理する口座です。

代理店は郵便局に「株式会社△△(代理店名)〇〇大学総合保障制度係」

という口座を作ります。

 

そしてパンフレットに挟む郵便振替依頼書には前半部分の会社名を外します。

「〇〇大学総合保障制度係」と記載します。

まるで大学の口座のようですよね。

これが代理店の口座なんて誰も思いません。

 

一般の代理店がお金を集めていると知ったら加入をためらいますよね。

こうやってあくまで学校が募集しているかのように見せるのです。

こうして良く分からないままに入学金か何かと同じように払ってしまいます。

 

もちろんこれが狙いなわけですが。

皆さん、どう思われますか?

 

良く分からないのに入る保険

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生徒総合保障制度、学生総合保障制度。

これって何の保険だと思いますか。

しかもいったい何が総合なんでしょう。

 

私は学校マーケットにも携わっていました。

そこで中心となるのがこの保険。

何の保険かと言うと学校に通う子どもの傷害保険です。

 

補償内容は子どもの傷害保険に加え、

賠償事故に備えた賠償責任保険、

そして扶養者である父親、もしくは母親が万が一の際に

死亡保険がついているといった内容です。

いろんな保障がついているから総合保障制度というわけです。

 

この保険は子どもである生徒もしくは学生が入学した際、

特に受験してやっと受かって喜んでいる親に売る保険です。

入学の時期に加入パンフレットが配布されます。

 

パンフレットには校長先生や学長先生みたいな人が

写真付きで「ぜひ加入しましょう」みたいに書いているので、

親御さんは何だかよく分からないうちに入るのです。

 

パンフレットにはもれなく郵便振替用紙が入っていて、

親が郵便局で何万円か振り込めば手続き完了です。

卒業するまで補償が続きます。

 

実際私も自分の親が私に保険を掛けていたのを知らず、

卒業後何年もたって親から知らされました。

学生時代知っていたら使う機会もあったかも知れません。

 

傷害保険といったって実際ケガをして保険を使うのは

一部の運動部や体育会に加入している人に限られますし、

親が万が一の場合と言っても死ぬなんてめったにありません。

しかもその多くはケガで死亡の際に限られますから、

実際払われるのって交通事故死くらいしかないですよね。

学生時代に親御さんが交通事故死した人って周りにいましたか?

 

そんなわけでこの生徒総合保険、学生総合保険というのは

保険会社にとってドル箱保険でした。

自動車保険なんかだと損害率60%、

つまりもらった保険料のうち60%を支払いますが、

この保険だとせいぜい20%しか支払いません。

女子校だともっと低くなります。

 

そんなわけでやればやるほど儲かる保険でした。

ですのでやってない学校を開拓していくのが私の仕事。

とにかく数多くの学校に行きました。

 

結構稼いだな、というのが正直な感想です。

入っていた人も多いんじゃないでしょうか。

 

皆さん、どう思われますか?

 

存在しないの団体の保険

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団体保険は加入者が多ければ多いほど割引率が高くなります。

募集する方からすれば、

一人でも加入者が多くなるように募集方法を工夫します。

 

でも少しよからぬことを考える人はより多くの加入者を集めるために

団体自体を作ろうとします。

私が赴任した時にもそんな始末書が残っていました。

 

公立高校の生徒を対象とした傷害保険の話です。

1校だけだと十分な加入者が集まらない、

またたくさんの学校単位で契約を立ち上げると事務的にも煩雑になる。

 

そんな理由でそれらを束ねるように「〇〇県下公立学校生徒保障制度」

みたいな団体名を作り、代表者も適当に作って募集を掛けたようです。

 

団体割引も効いて加入者にとってもメリットは大きい、

契約管理も効率化されて代理店も管理が楽になる、

保険会社も大きい保険になり同じく管理も楽になる、

何と関係者にとって何とも素敵な保険の出来上がりです。

 

などという簡単な話ではありません。

やっぱりこれもルール違反に間違いありません。

これができるなら「日本高校生生徒保障制度」みたいな

団体を立ち上げて募集すればものすごい契約になりますから。

 

結局私が赴任する前にこの団体は「架空団体」として

前任の担当者が始末書を書くことになってしまいました。

 

その始末書を私が見ることになったということです。

でもこれって団体を立ち上げる時に分かっていたことだと思います。

当時はそんなことよりも数字優先の空気だったんでしょう。

 

保険会社も何でもありだったのでしょう。

ひょっとしたらどこかでまだこんな契約が存在しているかもしれません。

 

ちなみにこの時の始末書は「代理店が主体で実施した」となっていました。

でも担当者は気づいていたと思います。

皆さん、どう思われますか?

 

役所の保険の切り札

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前回もお話ししましたが、役所の保険を取るのは大変です。

基本的に入札という壁がありますので最安レートでないと取れません。

やむを得ずガチの入札となった時は必死で保険料を下げます。

 

事業者向けの保険は自由料率ですから理論上いくらでも下げられます。

でも社内的には結構ハードな稟議が必要です。

商品部門は収益を確保することが求められますから、

現場がいくら下げたいといっても簡単に下げてくれません。

 

大きい保険になればなるほど保険料の計算は大変ですし、

また入札も厳しくなりますからその後の稟議も大変です。

やっとの思いで入札しても負けることが多いです。

そりゃそうですよね、5社も6社も入札して落札できるのは1社ですから。

 

そんな時に活躍するのが当該役所出身のOB社員です。

保険会社は役所のOBを顧問などの役所として迎えます。

それも元々の影響力ができるだけ強い人を採用します。

 

具体的にはやめる前の役職が高かった人です。

競合他社よりも役職が上だとなお良しです。

当時の我が課の顧問は最強でした。

 

噂では在職時に発生した汚職の責任を全てかぶって退職したそうです。

裁判になったそうですが、一言も口を割らずに責任を負ったそうです。

そんな我らが顧問に現職の人達の頭が上がるはずもありません。

他社の顧問たちも何があっても全く口出しできなかったようです。

 

役所の保険は面白いように取れました。

入札があっても条件は面白いくらい当社に有利なものでした。

顧問は我々のヒーローでした。

 

退職金はたんまりもらっていたのでしょう。

また会社としてもそれなりの処遇で迎えていました。

顧問は給料を夜な夜な歓楽街で散在していました。

多分会社からもらう給料は全部夜の街に消えていたと思います。

 

我々もよく誘われました。

帰りもタクシーチケットをもらいました。

今考えると古き良き時代だったと思います。

 

保険の公平性って何なんでしょう。

割引の効いていない保険に入っている会社や個人も多いというのに。

皆さん、どう思われますか。

 

 

市役所の保険

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当時の課では市役所の保険を扱っていました。

建物などは共済で入っていることも多かったのですが、

それでも結構な金額の保険料をもらっていました。

 

例えば自動車保険

市役所全体では何十台、何百台という台数の自動車がありますから

かなりの保険料規模になります。

 

ただ役所ですから好きな保険会社で好きな保険料で入るわけにはいきません。

こういうのを随意契約と言いますが、世間でも問題になっています。

当然入札という手続きを踏んで契約する必要があります。

 

当時まさに自動車保険が入札に掛けられることになりました。

我々の課としても何とか欲しい。

でも何社も入札する中で落札するのは極めて難しいです。

中にはダンピングみたいな入札をする保険会社もいますので。

 

ただ当時我が課と当該市役所は極めて緊密な関係がありました。

市役所の重鎮OBを採用していたからです。

OBもこういう時のためにいると言っても過言ではありません。

 

結果、落札することができました。

もちろん保険料が一番安かったわけではありません。

では何故落札できたのか。

 

それは総合入札制度というものを提案し、採用されたからです。

 

自動車保険たるもの保険料だけで選んではいけません」

「市役所の自動車保険は安心できる保険会社から入る必要があります」

というお題目の下、財務状況とか損害拠点の数とかを項目に入れます。

もちろん自社に有利に働くものばかりです。

 

もちろん総合入札制度の導入にあたってはそのOBが暗躍します。

ですから総合入札制度が導入された時点で勝ちです。

結局市役所としても毎年保険会社が変わるのも大変ですしね。

 

ただ役所として求められる公平性みたいなものはどうなのかなと思います。

外から見れば入札の条件が提示されているので一見公平に見えます。

 

そう言えば最近獣医学部の開設にあたって似たような話題がありました。

近くに獣医学部がある地域には開設すべきではない、みたいな。

当時外から見れば一見公平なルールに見えたのでしょうね。

 

皆さん、どう思われますか。

 

 

 

 

 

 

ルール違反はタイミングの問題か

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この場所はコンプライアンス問題だらけでした。

団体割引を使って割安な保険を扱っていたのですが、

団体割引の適用にあたってルール違反しているものが多かったのです。

 

中でも団体性に問題あり、という契約が多かったです。

ちなみに団体契約というのは、

同じ団体メンバーの契約だから保険料を10%とか割り引いていいですよ、

という契約のことです。

 

団体契約と呼ばれるためには、加入者には同一性が求められます。

ところがそうでない人たちが紛れていることがあります。

これを団体への混入と言っていました。

 

これがドクターの契約で発生したのです。

ドクターの場合、法人成りしている人と個人経営している人がいます。

これを同じ団体として割引して引き受けしていたのです。

 

こういったことが判明するとどうなるのか。

金融庁に届け出をし、改めて適正な引き受けに直す必要があります。

 

これが発覚しただけで関係者の人事評価は下がります。

先にも書いたようにここは私の担当ではなかったのですが、

当時は課の中がすごく暗かったのを思い出します。

 

当時の課長も周囲から「俺だったら線路に身を投げてるよ」

みたいに言われていたようです。

 

ところが届け出以上に大変なのが契約の修正です。

今まで割安な保険に入っていた人に「高くなります」と言うことになります。

スムーズに進むはずがありません。

 

もちろん引受している代理店にも影響があります。

しかもその代理店は損保に対して威圧的な態度を取る代理店なのです。

下手をすると取引停止です。

 

途中経過の詳細が若手の私のところに伝わるはずもありませんが、

この件は何とか無事終了したようです。

 

でも絶対その前の担当者も知っていたはずなんですよね。

それまではコンプライアンスに対して大らかだったようです。

ある程度のことには目をつむって大口契約が優先していたのでしょう。

 

そして私赴任した時期にコンプライアンスの嵐が吹いたのです。

結局その課長もその後関連会社に転籍していきました。

責任を取らされたんでしょうね。

 

でも問題の根源を作った人たちは成果を挙げて評価されたのでしょう。

結局はタイミングの問題だったのかなと思います。

 

皆さん、どう思われますか?

虎の威を借る狐の話

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今回も保険会社に対して立場が強い代理店の話です。

それはドクターの保険を扱う代理店。

当時一番ベテランの担当者が担当していました。

 

仕事の内容はその代理店のご機嫌伺いと情報収集です。

昼前にいそいそと出掛けてそこの人達と昼食を共にします。

そこに参加しないと情報はもらえないし、評価も下げられます。

 

評価が下がるとどうなるか。

その代理店が抱える大口契約の分担割合を下げられるのです。

 

分担契約について少し。

 

本来1つの契約においては1つの保険会社が契約を引き受けます。

ところが危険が大きいなどの理由で複数社が分担して引き受けることがあります。

シェア分担して保険料も支払保険金もその割合で按分します。

建設業界におけるJV(ジョイントベンチャー)みたいなものです。

 

これを使って契約者は意のままに分担割合を変更することができます。

1契約で1億円の保険料の契約があるとします。

30%の分担割合を10%下げられただけで2千万円減収です。

 

この数値を代理店の一存で変えることができるのです。

損保担当者もその契約を下げられたら自分の人事評価に影響します。

這いつくばってでも日参するわけです。

 

またそこのトップもかなりドラスティックな人だったようです。

少し機嫌を損ねるとシェア変更や取引停止などと騒ぎ出していたようです。

保険会社として前向きな仕事なんてできるはずがありません。

とにかく火の粉をかぶらないように頑張るしかありません。

あわよくばその火の粉が他社にいけばラッキーです。

 

これによって我々若手担当者もしわ寄せを受けます。

ベテラン担当者がそこに掛かり切りになり、担当が増えます。

「ただ昼飯食いに行っているだけなのに何なんだ」と思います。

 

さらにシェアが落ちると若手担当が必死に増やした数字が一気に下がります。

当然課の中は変な空気になります。

本来一番働いて稼ぐべき人が数字を落としてくるわけですから。

 

逆に数字が増えることもあります。

それは他社が失敗した時です。

そんな時は大々的に「よく頑張ったな」みたいに雰囲気になります。

若手担当者はシラけます。

 

でもそんなことをして自らの影響力を誇る人たちってどうなんでしょう。

そもそもその契約が大きいのはドクターがお金持ちだからです。

保険契約にたくさんお金を払うドクターの契約を扱っている代理店だからです。

 

別にその代理店のトップが偉いわけでも何でもありません。

ドクターをバックに偉そうに振舞っているだけです。

ドクターも自分の契約でそんなことが起きているなんて知らないでしょう。

 

皆さん、どう思われますか?