世にも不思議な損保の世界

現役損保社員として20数年、業界に対して思うこと、保険やお金に関する話を面白おかしくつづります。

保険セールスお断り

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ちょっと今回の話は長めです。

 

当時、私の担当ディーラーは積立保険に積極的ではありませんでした。

おかげで年度末以外はあまり「自爆」(自分で保険に入ること)せずに済みました。

ところがその日は突然やってきました。

 

その頃、損保でも生保を売るようになりました。

規制緩和というやつです。金融ビッグバンとも言われましたっけ。

とにかく我々ディーラー営業にも生保の目標が乗っかってきました。

でも積立保険も売れないディーラーで生保なんて売れるはずはありません。

 

でもディーラーには売るための必殺技があります。

そう、「キャンペーン」と呼ばれるただのノルマ強化期間の設定です。

 

話はそれますけど、損保業界ではこのキャンペーンという言葉を良く使います。

代理店や営業マンを件数や保険料でランキングして表彰するイベントです。

たくさん契約を取った営業マンや拠点が表彰されることになります。

 

さて、私の担当ディーラーでも生保キャンペーンがスタートしました。 

ディーラーの社員1人1件で目標が割り当てられました。

契約なんて出るわけありません。

誰が車の販売店で生命保険に加入するでしょうか。

 

キャンペーン期間はまたたく間に終盤に差し掛かりました。

私は焦りました。ヤバい、ディーラーに怒られる、課長にも怒られる。

ところが今回のキャンペーン、さらにマズい事態が発生していました。

 

ディーラー営業マンは最初から自爆を覚悟していました。

上が決めたキャンペーンだから反抗ができませんが目標はやらねばなりません。

ところが今回のキャンペーン、営業マンが自爆したくても自爆できません。

そう、生命保険は社員が自分の会社で加入することができないのです。

 

生保には「構成員ルール」と呼ばれる特殊なルールがあります。

会社の「構成員」である社員は自分の会社が代理店となる生命保険に入れないのです。

会社で入れば楽だし、会社の収益にもつながるのに変な話です。

 

このルールには裏があります。

生保レディにとって職域という最大のマーケットを守るためと言われています。

そのために生保業界がゴリ押ししたと言われています。

生保業界は政界に影響力を持っているそうですから。

 

これだけならまだ「頑張って外販しましょう」と言えました。 

ところが同時期にキャンペーンをしていた他損保は外資系生保を扱っていました。

なんと外資系生保は第三分野(医療・がん)に限って構成員ルールが外れるのです!

じゃあ「構成員ルールって何なの?」と突っ込みを受けそうです。

 

これはアメリカの圧力と言われています。

某アヒルの外資系生保会社ががん保険を売りまくっています。

日本社に規制があるなかで、外資系はこのルールに守られていました。

生保業界は政治的な圧力で訳の分からないことが多いです。

 

今はそのルールはもう撤廃されました。

でも当時は日本社だけに「構成員ルール」が適用されていたのです。

私の所属する損保は日本社ですからこの構成員ルールの対象でした。

 

多くのディーラー営業マンはそこの損保(生保?)で自爆しようとしました。

キャンペーンの件数目標を達成しないと上から怒られますから。

 

これはマズい!

自分が担当する拠点の営業マンがこぞって他損保(他生保)の保険に入るなんて。

上司やディーラーに半殺しにされないよう私は頭の中でいろいろ考えました。

 

そして決めました。

他損保で入られるくらいなら自分が保険をかき集めて営業マンの成績にしてしまえ!

そこから私は自分のみならず、親兄弟、知人友人の契約をかき集めました。

そして自分が担当する拠点の営業マンの成績にしました。

 

私は何とかキャンペーンの目標をやり切り、他損保の攻勢も乗り切りました。

一方で親兄弟、知人友人からはしっかり「保険屋」のレッテルを貼られました。

身内に保険を売る「保険屋」のイメージそのものです。

二度とこんな経験はしたくないと思いました。

 

キャンペーンという言葉、思い出したくもありません。

 

皆さん、どう思われますか。

自爆と呼ばれる保険契約

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目標達成のためにやむなく自分で保険に入ることを「自爆」と呼びます。

年度末の目標達成のためにやることが多いです。

しかしディーラー営業の場合、年度末だけではありません。

 

ある先輩は営業所単位で毎月積立保険の目標を持っていました。

ディーラー営業マンも積立保険まで目標持たされて大変な仕事です。

 

当然目標達成できない月が出てきます。

そんな時、その先輩の登場です。

颯爽と営業所に現れた彼は救世主のように自ら積立保険を契約、目標達成に導きます。

 

そこまでして目標達成を目指すのには理由があります。

目標達成できないと損保社員はディーラー本社から拠点指導能力不足を問われます。

最悪「テリ変」と呼ばれる恐ろしい事態が待っています。

 

テリ変とは「テリ」トリー「変」更のことです。

担当拠点を他の損保に切り替えられることです。

ディーラー営業では最も恥ずかしいこととされています。

そうならないように先輩は頑張っていたのです。

 

でもこれは担当している間、ずっと続きます。

生活にも影響が出てきますので保険に入るにも限度があります。

やむなく前に加入した保険を解約して新しい保険に加入するようになります。

まさに保険の自転車操業です。

 

保険は中途解約すると、掛け金に対して戻ってくる金額が大幅に減ります。

その先輩もかなり損してると言っていました。

結局転勤するまでそれが続きました。

 

当然後任の担当者も同じことをすることになります。 

大変なところに配属されたなと思いました。

私も似たような状況に追い込まれました。

 

損保社員の給料は保険に消える。

 

皆さん、どう思われますか?

 

 

こんな場合も支払われるなんて

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ディーラー営業ではよくある話です。

自動車保険で車の入替手続きをしてませんでした、という話。

 

車を買い替えると自動車保険の対象となる車も変更手続きが必要です。

自動車ディーラーで加入している場合、営業マンが対応します。

 

でも結構忘れる営業マン、多いです。

お客さんが他メーカーに乗り換えた場合、気づかないこともありますし。

 

この場合どうなるか。

残念、保険の対象が違うわけですから本来支払いの対象外です。

ところがこれがディーラー営業で発生すると・・・、

 

そうなんです、支払われる、が答えです。

「代理店である自動車ディーラーに非があり、契約者に責任を負わせるのは酷である」という理屈付けがなされて支払われます。

こういうケースで保険金を支払い、ディーラーに恩を売ってプラスに持っていく、というのはディーラー営業の腕の見せ所でした。

 

逆に「車両入替ができていないので支払えません」となるとどうでしょう?

契約者は烈火のごとく怒り、代理店であるディーラーは窮地に立たされます。

これを救うことでディーラーに恩を売ることができるのです。

 

ヒドいケースではこれをやらなきゃ保険扱い高を減らす、というのもあります。

自動車販売店と損保の関係なんてそんなもんです。

 

こうした対応をすることで損保に対する販売店の評価も上がり、さらには扱い高も増え、その担当者も社内で評価を得ていくわけです。

WinーWinの関係が成立していますよね。

 

あれ、保険会社としての公共性はどこへ?

 

皆さん、どう思われますか?

 

 

 

 

 

 

車を買うのがお仕事です

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ディーラー営業はとにかくディーラーに対する立場が弱いです。

 

自社の自動車保険自賠責保険を販売店を通じて売ってもらう。

というのが表向きの仕事ですが、何せ損保、損保社員の位置づけが低い。

当時も先輩から「向こうにとっては犬、猫、損保だから」と言われていました。

 

最近「D通は体育会系でブラック」みたいな風潮がありますが、決して負けません。

会社も明らかに体育会を揃えて、ストレスに強いメンバーが多かったです。

販売店のためなら何でもやるよ、という雰囲気がありました。

 

一般的な話としては販売店の本業協力、つまり車の購入を求められます。

販売店で車を買うことで、競合他損保に対してアドバンテージを得るのが目的です。

ディーラーは複数の取引損保を天秤に掛けて競わせるのです。

担当者はとにかく車を買うのが仕事、車検を通すなんてもってのほかでした。

 

しかも担当販売店によってはさらに厳しい事態が待っています。

不人気車を扱う販売店を担当する担当者は特につらいです。

販売店も外で売れないので損保からの購入をあてにしますから。

 

不人気車を買うと、買い替え時も不人気車ゆえ下取りが低くなります。

従って下取りを高く買い取ってくれるそのメーカーの車をまた買わざるを得ません。

当時「マ〇〇(メーカー名)の輪廻(りんね)」と言われていました。

そのメーカーの車をひたすら買い続けるしかないのです。

それでも低いんですけどね。

 

また自分で買うだけでなく、他の部門の社員にも買ってもらうのも仕事。

よくディーラー営業主体で社員向けに展示会も開催していました。

会社も超低金利でお金を貸してくれるのでサポート体制もバッチリです(笑)

 

そんなわけでディーラー営業は販売店様様の営業スタイルです。

会社としては効率良く儲けさせてもらっているので仕方がないんでしょうが。

 

いったい損保って何屋なんだろう。

 

皆さん、どう思われますか?

 

 

 

 

 

 

黒いものも白に

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入社後最初に配属された私の課には、とある熱い先輩社員がいました。

私もお世話になり、尊敬できる先輩でした。

 

ところがある日、その先輩が査定部門の課長と激論を交わしていました。

激論と言えば聞こえは良いですが、実際は激しい口論でした。

 

ある自動車事故の保険金支払いについて先輩は「払ってくれ」、相手課長は「いや、払えない」という内容です。

相手課長は「約款上払えない」と。

先輩は「とにかく大事なお客さんだから払ってくれ」という内容。

これだけだと先輩がダメなものをゴリ押ししているように聞こえます。

でもディーラー営業の世界、そんな単純な話ではありません。

 

これは先輩が担当する販売店が扱うトラックの自動車保険の話でした。

そのトラックが壁にぶつかり、車両保険の請求がありました。

ところが、そのトラックの壊れた部分は違法改造した部分だったのです。

 

写真で見ましたが、映画のトラック野郎に出てくるような凄いデコトラでした。

その課長曰く「あれはガンダムだよ」と。

そのトラックは法令違反の改造をしていて、壊れたのはその部分の請求だから払えないですよ、という相手課長の主張です。

 

約款上払えないからそれで終了となればよいのですがそうはいきません。

先輩としてはこれが支払い対象外になるとそのトラックの契約がなくなるだけでなく、代理店である大型販売店からもクレームになる、というわけです。

大型販売店からのクレームはすなわちそこでの扱いが減るということです。

自動車保険自賠責保険の切り替えなんて簡単ですからね。

 

押し問答の結果、営業の立場である先輩が「本当は払えないけど、営業上やむを得ないから払ってくれ」という稟議書を書いて支払うことになりました。

その課長はそっとその申請書を事故フォルダ(案件を紙でファイリングしているもの)に挟み込みました。

 

「損害保険会社ってこんな仕事をするんだ。やっぱり大口顧客を守るのは大変だな」と思いました。

でもこれって個人の契約者や普通の代理店からしたら納得できないですよね。

昔問題になった証券会社の損失補てんと同じ構造で、大口顧客優遇ですから。

 

でも当時こんなのは日常茶飯事でした。

 

皆さん、どう思われますか?

 

 

 

 

 

 

中古車店の秘密

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損保会社の営業として担当していた中古車ディーラーの話です。

 

そのディーラーには神とあがめられる課長がいました。

その人は創業者でもないし、すごく車を売った人でもありません。

なぜ神とあがめられたのか?

 

それは神業を持っていたからに他なりません。

そう、その神はメーター戻しの神でした。

神はメーターを持って〇〇部屋(〇〇にはその人の名前が入る)にこもります。

 

出てきた神の手には、走行距離が何万キロも減ったメーターが。

全く傷跡も残しません。まるでブラックジャックのようです。

走行距離が少なければ販売価格も高くなります。

 

こうしてその中古車ディーラーは大きくなったそうです。

 

ちなみにその隣にある輸入車中古車ディーラーも業界では有名でした。

ここもブラックジャック並みのスーパーテクを持っていました。

そう、車の合体をやっていたのです。

ニコイチというやつです。

 

事故車を二つくっつけて新しい車の完成。

カッコ良さを求めて安い輸入車に乗りたい人は飛びつくんでしょうね。

でもまさかこんな裏技がかくされているとは夢にも思わなかったでしょう。

 

輸入中古車を買うときって難しいですよね。

登録年月日も日本で登録された時になります。

海外で何年前に製造されたのかなんて全く分かりませんからね。

 

ウンチク話になってきたのでこのへんで。

皆さん、どう思われますか?

 

知らないうちに押される印鑑

前回に続き、前任者からの引き継ぎを受けていた時の話です。

 

「印鑑のない申込書をもらったら登録課で印鑑を押すこと」と言われました。

「どういうことですか?」と聞きました。

「自動車販売店の営業マンは保険料の振込みだけで契約を受け付けるから、申込書に捺印がない」と。

 

当時の自動車保険は、お客様から保険料をもらうのと同時に、申込書に捺印をもらうのがルールでした。

今は個人の場合、サインになっています。

 

ところが、営業マンは自動車保険の更新の手続きでお客様を訪問することはせず、振り込みだけで契約手続きをしていたというわけです。

 

私は変だな、と思いつつも「これが損保営業なんだ」と思って受け入れました。

 

登録課というのは自動車販売店が自動車の登録をする時にその手続きをする課です。

彼らは彼らで車の登録に必要な書類を作成するのにお客様の印鑑が必要です。

役所に提出する書類を作成するために印鑑を押す必要があったのです。

ストックとして驚くほどの印鑑を持っていました。

 

当時、その登録課には通称「五千字」と呼ばれる印鑑の在庫がありました。

五千字と言われるくらいですから5,000字の印鑑があったんでしょうね(笑)

五十音順で冊子になっていて、該当ページを開くと印鑑の先の部分だけが糊でくっついていました。

イメージで言うと昆虫採集の標本みたいなもんです。

いろんな印鑑が標本のように並んでいました。

 

使うときには印鑑の先っちょを冊子から剥がして指先につけて捺印します。

よく考えればそのディーラーも当たり前のように他人の印鑑を押していたんですね(笑)

 

ところがその「五千字」にも存在しない名前の人がいます。

そんな時は印鑑の上半分と別の印鑑の下半分をくっつけて、新たな印鑑の完成です。

 

ちなみに余談です。

その登録課には「ゴッドハンド」と呼ばれる女性がいました。

その女性は3分の1ずつをくっつけて3文字の印鑑を作ることができたのです。

まさに神業でした。

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皆さん、どう思われますか?